●2015.11.24約束
毎年この時期になると 思い出すエピソードがあります。レストランの仕事を始めたばかりのクリスマスイブの夜、御予約の時間を少し過ぎて 男性のお客様がお一人で御来店されました。 ご案内をしようと近づくと、 「すみません…食事はいただけなくなりました。今日の為にと色々用意をして待っていたのですが 約束していた連れが来なかったので… 準備をして頂いているお店にも申し訳ないと思い 代金を支払いに来ました。」といった旨の お申し出でした。 見習いだった私は「イブにこれは…」と同情し直ぐに上司に相談に行ったのを憶えています。当時 男性の可哀想な面ばかりが気になっていましたが、時が経ち この季節にこの出来事を思い出す毎に、 少しづつ私の心のあり方も変化してきました。ご自身も待ちぼうけをさせられたにもかかわらず、予約したレストランに『約束』を果たしに足を運んで下さったお客様の律儀さは、本当にありがたい事でした。
レストランは 日々お客様から多様なリクエストや御予約をいただきます。お苦手な食材、アレルギー、お好みの物、お集まりの趣旨 等々….様々な試行錯誤を繰り返しそのリクエストにお応え出来るように日々頑張っています。 しかしながら、時には 限られた時間と人数で心も体もクタクタになってしまう事があります。そんな時また私達を奮い立たせてくれるのは、 「車が混んでて 10分遅れます」や「一人都合悪くなっちゃったから、一人代打を呼んだよ!」といった お客様の温かいお心遣いなのです。人と人とのお付き合いを重ねてくださる『あの律儀な男性』の 様なお客様に支えていただいているのです。 最近、飲食店の格付けや批判に対抗する様に お客様のモラル云々…と一部話題に上がっていたりしますが、そんな事に注視ばかりしているなんて ちょっぴり寂しいじゃないですか、ね。 そもそも、レストランは皆が楽しく過ごす場所なのですから。20数年前、「予約」を「約束」に換えてくれた男性の言葉が ぐっと 心に染みる2015年のシーズンです。